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七話 道具を愛する古道具屋

 さて、目の前にある物体に激しく見覚えがあるのだが。軽く目を揉み解し、瞬きをして再びそれへと視線を向ける。うん、やっぱり間違いじゃない。

「……なんでここにいる、○ーネル」

 有名なチキンの店のマスコットキャラクター、というか創設者だっけか。その置物が鎮座なされている。いや、本当になんでいるんだこんなとこに。行方不明になったうちの一体がここに流れ着いたのか? どこかの教祖と一緒にいなくて良かった、なんて思ったのだが何かしらの電波だろうか。
 他にも見覚えのある物ばかり、乱雑に置かれている。店というより物置っぽいな。

「んー、レミリア達に聞いた香霖堂ってのはここだよなぁ」

 木々が生い茂る鬱蒼とした森――魔法の森と呼ばれる場所、その入り口付近にこの店はあった。
 昨日、永遠亭から帰ってきたあと次はどこへ行こうか悩みどこかお勧めはないかとレミリア達に聞いたところ、微妙そうな顔をされた。曰く、お勧めの場所なんてないらしい。挙句の果てに、本気で幻想郷を観光しようなんて物好きにもほどがあるとまで言われた。
 折角の機会なんだし、おかしくないだろうに。まぁ、命の危険があるのは勘弁願いたいが。

「ていうか、本当に色々あるな」

 そのどれもに共通しているのは、壊れていて使い物にならないという一点。壊れた信号機に、液晶画面が割れた携帯電話、プラグがないテレビなどなど。俺のいた世界にもあるものだが、本当に色々流れ着くんだなぁ。

「何やら音がするけど、誰かいるのかい?」

「あ」

 がらりと店の扉が開き、中から銀髪の男性が出てくる。しゃがみこんで色々と見ていた俺は立ち上がり、頭を下げて会釈する。

「どうも」

「ふむ、お客さんかな?」

「恐らくは」

「そうか、ようこそ香霖堂へ。僕はここの店主をしている森近霖之助だ」

 よろしく、と差し出される右手。それを握り返し、自分も名乗る。

「相沢祐一、幻想郷の観光をしてる者です」

「観光? ずいぶんと物好きだね。命の危険が伴うというのに」

 何度言われればいいんだろうか、物好きと。確かにここは俺がいる場所とは違って、常に命の危険が付き纏うから仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけど。諦めるしかないか、言われてることに間違いはないんだし。

「何度も言われてます。で、幻想郷での有名所を押さえる為に今日はこの香霖堂に来たんです。買い物をするかどうかは、まだ分かりませんけど」

「有名? 意外だ、そんな評価を受けたのは初めてだ。そうか、僕の店はそれなりに有名だったのか」

 しきりに頷く森近さん。その表情が少しにやけているのは、やはり嬉しいからだろうか。まぁ、店が人に知られているというのは、商売人にはやはり重要なんだろう。俺はそういう経験がないから、予想しか出来ないけど。

「観光、ということは君は幻想郷の住人じゃないね。となると、外からかい?」

「はい、一応外から来てます」

 外は外でも、平行世界の外っぽいけど。

「そうか! いや、実に運がいい。僕の店には外から流れ着いた物がたくさんあってね、名前と用途は分かるんだが使い方がまったく分からないんだ」

 未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力、というものを森近さんは持っているらしい。だが、その能力はその名の通り名称と用途は分かるが、使い方までは分からない。
 ……言っちゃなんだが、中途半端すぎないか? 用途が分かるなら、使い方も分かるだろうと思うのは俺が外の人間だからだろうか。森近さんに案内され、店の中へ行くと見たことがあるものやないものが所狭しと並んでいる。お世辞にも綺麗な店だとは言えないが、暖かい雰囲気はする。

「例えば……これだ」

「掃除機ですね」

「そう、掃除機。名前からも推測できるように、掃除をする為のものらしいが使い方が分からない。この先端部分にあるもので塵をどうにかするとは思うんだが……それに、この後ろにある線が何なのか。突起物が二つ、これは鬼の角でも表しているだろうか。だが、それと掃除になんの関係が」

 まさかプラグと鬼の角を繋げるとは、どこからそんな発想が。カルチャーショックとか、ジェネレーションギャップとかそんなレベルなんだろうか。

「森近さん、それプラグ。そのプラグをコンセントに繋いで動かすんですよ。ただ、電気がないと動きませんけど」

「電気、かい? それは、雷のような?」

「あそこまで強力なのはいりませんよ。俺も詳しくは分かりませんけどね。ただ、この幻想郷にコンセントなんてないだろうし、使い物にならないかと」

 電化製品なんて最たる物。電気がなければまず動かないし、仮にあったとして掃除機は動いてもテレビは無理だろう、放送局がないんだし。使い物にならない、という言葉に森近さんが気落ちした表情になる。だが、使い方が分かっただけでも重畳だとそそくさと掃除機を裏へと持っていった。
 重畳、ってどういう意味だろう。

「じゃあ、これはどうだい? 携帯電話なんだが」

「あぁ、俺持ってますよ。ほら」

 今や携帯は必需品。持ってない人間の方が珍しいのだ。士郎は持ってないけど。遠坂は……持ってたのは覚えてるが、最近見てない。

「電話というのは遠く離れた相手と会話をするものだと分かっているんだが、どう使うんだい?」

「電波がないと動きません。俺の携帯は……電池はあるけど、圏外だ。当然だろうけど」

 幻想郷では近代機器のほとんどは動かない。動かすのに必要な物がないから。

「相手の電話の番号を知っておく必要もありますからね。携帯は他にもメール……あー、遠く離れた相手に一瞬で送ることが出来る手紙を渡すことも出来ます」

「へぇ、そうなのか。ふむ、ますます使えないのが残念だ」

 その後も森近さんにこれはなんだ、あれはなんだ、これはどう使うなどと聞かれ続ける。分かる範囲内で答えていくが、段々と疲れてきた。知識欲が深すぎるぞ、この人。

「霖之助さん、いる……あら、お客なんて珍しい」

「やぁ、アリス。今日はどうしたんだい?」

「買い物よ。裁縫用の糸がほしいんだけど」

「少し待っていてくれるかな、在庫は後ろに仕舞ってあるんだ。相沢君、すまないが少し待っていてくれるかな」

 頷き、森近さんが再び店の奥に引っ込んでいくのを見送る。そして残される俺とやってきたアリスと呼ばれた女の子。ゴスロリ……とはちょっと違う感じの、それでもややファンシーな服を着ていてどことなく西洋人形を彷彿とさせる容姿。その横に浮かぶ一体の人形……そうか、幻想郷では人形も飛ぶのか。

「何?」

「あ、じろじろ見て悪い。人形が浮いてるから」

「別に珍しくも……って、その服装からして外来人かしら。もしかして、魔理沙が言ってた人?」

「最近きた外来人のことを指しているなら、多分そうだと思うぞ。相沢祐一だ」

「聞いた名前と一緒ね。私はアリス、アリス・マーガトロイドよ」

 言い難そうな名前だ。素直にそう言ったら良く言われるわと返される。それを皮切りに俺が幻想郷で観光をしていることや暫く滞在すること、紅魔館に部屋を借りていることを話す。紅魔館にいる、という事を聞いた彼女は微妙そうな顔をしていた。段々慣れてきたぞ。

「待たせたね、ほら、いつもの」

「ありがとう霖之助さん、これ、代金」

「毎度ありがとうございます。……やはり、ちゃんとお金を払って買い物をしてくれるというのは嬉しいね」

「いや、それ当たり前のことじゃ」

「祐一、ここにはその"当たり前の事"をしない奴らが二人来るのよ」

 それ、泥棒っていうんじゃないのか? 警察に突き出して、ってそういう機構がないのか。そして森近さんはそれを黙認しているようにも見えるんだが。

「まぁ、霊夢と魔理沙なんだけど」

「あの二人か!?」

 何やってんだあの二人。金払えよ。

「森近さん、二人から金を回収しないんですか?」

「そうしたいのは山々なんだがね、何度言っても聞きやしないんだ」

「無理矢理にでも回収すりゃいいでしょうに。そのまま泣き寝入りする気ですか?」

「そのつもりはないよ。ただ、あの二人は小さい頃から知っている仲だから、少しやりにくいのさ。魔理沙は恩人の娘さんだしね」

 もっとも、あの二人の性格が一番の原因だけどとため息と一緒に漏らす。まだ性格を把握するほど話していないので良く分からないが、少なくとも難儀な性格なのは間違いない。

「霖之助さん、祐一、私は帰るわ」

「またのご来店、待ってるよアリス」

「またな」

 空飛ぶ人形――上海を伴ってアリスが香霖堂を出て行く。なんというか、クールというか冷めているというか。あまり感情を表に出さない子だったな。大して話さなかったし……ま、話す機会はまた来るだろ。

「彼女はうちのお得意様でね。人形作りに必要な糸や布を買いに来るんだ」

「へぇ。じゃあ、あの浮いてる人形も?」

「あぁ、彼女お手製だ。尤も、彼女の目的は人形作りに終わらないと聞くがね。おっと、これに関しては僕の口からは言えないよ。興味があるのなら、彼女に直接尋ねるといい」

「気が向いたらそうします」

 彼女が出て行ってからも、森近さんはあれやこれやと尋ねてくる。いい加減疲れてきたんだが……なんかすごい楽しそうなので、切り出しにくい。

「……すまない」

「はい?」

「いや、僕の悪い癖だね。使い方の分からない道具の正しい利用方法を知っている相手を見つけると、こんな風に質問攻めにしてしまう。お客として来ているのにこれは失礼だな」

「まぁ、確かに辟易とはしてましたけどね。森近さん、すごい楽しそうだったからこっちも切り上げにくかったですし」

 知らないことを知る、ということが楽しいというは分からなくも無い。森近さん、勉学とか好きなんだろうか? 俺は勉強なんてさらさらごめんであるが。

「時間をとらせて申し訳なかった。君がよければ、またのご来店を待っているよ」

「気が向いたらまた来させてもらいます。ただまぁ、買い物をするかどうかは分かりませんが」

「外の世界の住人である君からすれば、うちには目新しいモノはないかもね。ただ、うちは外の世界の道具も取り扱っているが、幻想となったモノも扱っている。もしもそれが入用となった時は、ご贔屓にしてもらえると嬉しい」

 幻想になったモノ、ね。その言葉を浮かぶのは宝具。まさか、そんな代物がここにあるとは思えないが……もしあったら、何が何でも買うべきだろうか。現代に現存する宝具は少なく、それが手に入れられる状況にあるというのなら、手に入れておくのも悪くはない。
 それを使いこなす技量や資格があるのかは別にしろだ。

「そうですね、過去に存在した英雄の持ち物とかあったら買わせてもらいますよ」

「英雄の持ち物……生憎だが、店にはそういったモノは置いていないね」

 そりゃそうだ。現存する宝具がそうそう転がっているはずもなし。期待はしていなかったが、今後見つからないとも限らない。ここは幻想となったモノが辿り着く幻想郷らしいし。
 森近さんに別れを告げ、俺は空を飛び紅魔館へと帰るべくスピードを上げた。





「……嘘は言っていないよ。店には置いていないだけであって、持っていないとは言っていないからね僕は」

 祐一が飛び立ってから、霖之助はぽつりとそう呟いた。彼が自宅としている裏には、一振りのやや汚れた剣がある。

 銘を霧雨の剣。またの名を、草薙の剣。現存する宝具の一つである。

「あれは僕の持ち物だから、流石に売るわけにはいかない。まだ、草薙の剣に認められてはいないしね」

 実のところは、魔理沙が拾ってくるガラクタの中には貴重なモノが混じっている事があるので、霖之助は八卦路の調整といった行為との交換でそういったモノを回収している。明らかに等価交換ではないが、魔理沙は与り知らないことなので何の咎めもない。
 それでも罪悪感からか、霖之助は魔理沙には頭が上がらないのだが。

「無縁塚にも、魔理沙が持ってくるモノにも滅多にない代物だ。恐らく彼が望むモノが手に入る可能性はないとは思うんだが……」

 ――仮にあったとしても、非売品として僕の持ち物に加えるだろうしね。

 つまるところ、彼は商売人には向いていないのである。自分に有用、もしくは貴重であると判断したものは非売品としてコレクションするのだ、店に並ぶのは彼にとって不要であると判断されたモノ達。勿論、どうでも良いというわけでは決してない。
 道具は生きている。年月を経たモノは九十九神となるが、それが人に害を為すか、人を慈しむようになるかは扱われ方によって変わる。霖之助としても、自分の売った物が危害を加える九十九神となることは望まない。だからこそ、店で取り扱う道具には愛をもって接している。そして使い方が分かり、自身にとって利益となるようであればめでたく非売品となるのだが。

「どーもこんばんわー」

「やぁ、いらっしゃい。お帰りはあちらだよ」

「来店そうそう追い返そうとするなんて、それでも店主ですか?」

 突然の来訪者。お客なら霖之助もきちんと対応したが、来たのは新聞記者だ。

「冗談だ。で、何の用だい? もしかして、万年筆のインクが切れたかな? それなら新しいモノが」

「いえ、それはまだ大丈夫です。ですけど、近いうちに買わせてもらいましょうか」

「予約、ということでいいね。確かに承ったよ」

「どうも。で、ここに来た用件なんですが……まぁ、いつもの通りネタ集めですね」

 そう言って記者は懐から万年筆とネタ帳を取り出す。霖之助が何か知っていたらすぐにでもメモを取るつもりだ。しかし、生憎と霖之助には期待に答えられるようなネタを提供できない。

「すまないけど、特に珍しいこともないね」

「むぅ、ここも外れですか。困りました……次に出す新聞のネタがないんですよ」

「そうは言われてもね。僕も君の新聞はそこそこ楽しみにしているけど、提供できるモノがないのだから仕方ない。こういうものはじっくり探すものだよ」

「情報は速いうちに提供しないと意味がないのですよ。新聞製作で重要なのは速さです。幻想郷最速の新聞記者としてはこのようは体たらく、許されません」

 中身はただのゴシップ記事なのだが、霖之助は聡明なので口には出さない。さらに記事の内容も事実からかなり誇張されて書かれているので、彼も話半分にしか見ていない。楽しんでいる、という言葉に嘘はないのは確かだ。彼なりに記者の書く新聞は好んでいる。

「君も好きだね。まぁ僕から提供できる情報は……ふむ」

「? どうしました、店主さん」

「いや何、情報というほどのものじゃないけどまた新しい外来人がやってきてたと思ってね。君が来るほんの少し前に帰っていったけど」

 霖之助の言葉に記者は万年筆を口元にあてながら唸る。外来人自体は特に珍しくはない。ふらっと外から迷い込んできた外来人は妖怪に食べられたり、幻想郷に住み着いたり、再び外へと帰ったりなどは割りとある。
 インパクトが欲しい、というところ。

「彼の目的は幻想郷の観光らしいけどね。少しだけ話を聞いたけど、八雲紫に招かれて今は紅魔館に宿を取っているとか」

「むむむ、あの八雲紫直々の招待ですか。しかも紅魔館に宿とは、相当命知らずな方ですねぇ。幻想郷の観光という目的からして無茶そうですが」

 少しだけ興味がそそられたらしい。だが今一歩、新聞にするには弱い。とりあえずネタ帳である文花帖にさらさらと分かる限りの情報を書き込んでいく。候補の一つとして確保し、他にもいい情報があるのならそれとあわせて新聞作成に踏み切る。
 そしてまた、誇張表現で書かれるのだろう。

「好きにするといい。彼は明日もきっと何処かに向かうだろうから、捕まえてみたらどうだい」

「勿論、そのつもりですよ。幻想郷最速である私から逃げられる人間なんていません」

 余談ではあるが、幻想郷最速というのは自称だ。しかし、実力に裏づけされたものではある。幻想郷最速をめぐって、"彼女"と霧雨魔理沙は日々戦い続けている。

「私の速さからは逃げられないわよ、外来人」

 そう言って新聞記者、鴉天狗・射命丸文は香霖堂を後にする。彼女の羽が店内に落ちるのを見届け、霖之助は少しだけ彼女にこの話をしたことを後悔した。

「――彼の観光の邪魔にはならないようにね、文。それと、すまないね相沢君」

 重い腰を上げて店仕舞いをする為に動き出す霖之助。魔法の森の入り口付近にある香霖堂は、いつでも来客を待っている。
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神薙 祐樹

  • Author:神薙 祐樹
  • 1987年3月11日生まれ。
    うお座のAB型。
    現在は雇われ店長としてブラックな職場で日々働いて時間を失っています。

    RO現在休止中。Mimir鯖所属、主に影葱。ガンダムオンライン、ガンダムジオラマフロントにはまってます。

    SS書く時間がほしい。
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