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最終話

 アーチャーとの戦いはセイバーとアサシンの勝利に終わった。一瞬のミスすら許されない、まさに極限状況での戦い。セイバーとアサシンは、それを潜り抜けたのだ。
 放たれる弾丸を潜り抜け、アーチャーが自らの宝具を放つ時間を与えまいとアサシンが身を削りな
がら足止めする。


「ちぃ、うろちょろとうるさい雑種が!」


 槍を手繰り寄せるアーチャーの鎧に、アサシンは蹴りを叩き込む。それは内部まで貫通することはなかったが、アーチャーの体を押し戻すには十分の威力だった。
 そのままアサシンも自らの宝具である剣を使い、止まることのない斬撃を放つ。


「はぁ、はぁ、はぁ――――」


 自分の肉体が悲鳴を上げる音を聞きながら、しかしアサシンの剣撃は止まらない、止まれない。

 ――自分達はアーチャーを、士郎や凛、イリヤは言峰を。

 それは、当然のことだ。サーヴァントを打倒しうるのはサーヴァントのみ。しかし、戦う相手という枠に括ってしまえばそれはもはや意味を持たない。
 この戦いに負けはない。負けなどありえない。勝利――それだけが存在し、成し遂げなければならない。


「くっ、いい加減に我の目の前から失せろ薄汚い犬が―――!」


 アーチャーの手に手繰り寄せられた魔剣の一撃で、アサシンの腕が切り裂かれる。しかし、そんな事など構わない。
 自分はただ、自らの役目を果たすだけ(・・・・・・・・・・)。


「はぁぁぁぁ―――っ」


 アサシンの背後からセイバーがアーチャーめがけて疾走する。手に持つは星が鍛えし極光の聖剣。
 そのセイバーに向けてアーチャーは無数の宝具を射出。しかし、セイバーは避けない。避ける力すらも、全てはこの一撃の為に――――!


 「約束されたエクス―――」


 鎧を壊され、身にまとう服を血で濡らし、剣が自分の体を貫こうともセイバーは止まらない。裂帛の気合とともに、自らの持つ聖剣を振りかざし、アーチャーが天地を切り裂いた乖離剣を使いよりも速く、


「―――勝利の剣カリバー!」


 アーチャーの体へ全魔力を込めた一撃を叩き込む。魔力は光の粒子となり、切り裂いたアーチャーの体を照らす。
 鎧の中の肉体すらも切り裂いて、セイバーは聖剣を振りかざした体勢のまま止まった。


「……ふん、我の負けか」


 つまらなそうに、感慨深く呟くのはアーチャー。セイバーのエクスカリバーによってつけられた傷は、致命傷だ。幾分の猶予もなく、アーチャーは英霊の座へと帰るだろう。


「強情な女だ。だが……良い。手に入らぬからこそ――」


 アーチャーはそう言って、


「――美しいものもある。いやはや、中々に楽しかったぞ騎士王。そして、聖杯の器を守る守護者よ」


 静かに笑いながら消えていった。後に残るのは、腕を失くしたアサシンと、血塗れとなったセイバー。


「向こうも、終わったみたいだな」


 アサシンの声にセイバーは顔を上げる。行かなければ――そう思った。


「行きましょう、アサシン。シロウ達が待っている」


 まだ、自分には役目が残っている。宝具を放つほどの魔力は残っていないが、自分自身が消える覚悟ならば、あと一撃は放てる。
 後、一撃。十分だ。


「ほら、肩貸してやる。掴まれ」


「……すみません、その好意に甘えます」


 自身も腕を失い、セイバーへと向かってくる弾丸を身を挺して受けていたというのに、アサシンはそれをおくびにも出さずセイバーに肩を貸す。
 セイバー達が士郎達の下へたどり着くと、血に塗れながらもしっかりと立つ、士郎、凛、イリヤの姿。そして、士郎の腕の中で眠る桜。


「よぅ、衛宮。遅くなった」


「いや、いい。そっちは大丈夫だったか?」


「はい、アーチャーは倒しました。後は、最後の仕上げだけです」


 全員が上を見上げる。桜という器通して生まれた聖杯は、未だに泥を吐き出し続ける。聖杯として完成した――否、完成していない未完成な大聖杯。
 中に眠る反英霊は、士郎の投影したキャスターの宝具「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)」によって切り離された桜の肉体を、もしくは本来の聖杯であるイリヤの肉体を求めて悲鳴を上げていた。


「さて、後は任せたぜセイバー。俺にはもう、何も出来る事はないからな」


 セイバーの体を離し、アサシンは笑う。それに頷き、セイバーは最後の役目を果たす為、もう動くことすら難しくなってきた自分の体に力を入れる。
 聖剣に自分が現界する為に必要な魔力を全て注ぎ込んでいく。


「……セイバー」


 そんなセイバーの名を士郎は呼ぶ。はい、とセイバーは顔だけをそちらへ向けた。
 視界が霞む。しかし、目に映る士郎の顔だけははっきりと映っていた。ひどく、泣きそうな表情だ。


「シロウ、そんな顔をしないで下さい。サクラを助けることができた、それで良いではないですか」


「っ、あ、あぁ。そうだな、ごめん」


 無理矢理、笑顔を作る士郎だが、顔に流れる血がそれを不気味なものにしていた。それを見たセイバーは、思わず笑ってしまう。


「む、何笑ってるんだセイバー」


「いえ、気にしないで下さい。ちょっとしたことです」


 まったく、なんて最後だろう。しかし、これが一番自分達らしいのかもしれない。


「――今までありがとう、セイバー。お前が俺のサーヴァントで、本当に良かった」


「そうね、士郎には勿体無いくらいだったわ。でも……お似合いのコンビかもね」


 士郎と凛からそんな言葉をかけられる。


「こちらこそ、シロウが私のマスターでよかった。そして、リン。ありがとうございます」


 士郎と凛にそう告げ、セイバーはアサシンとイリヤへと視線を向ける。


「アサシン、一足先に『行きます』。それでは」


「あぁ」


「セイバー……さようなら」


「えぇ、さようならイリヤスフィール」


 別れは済んだ。さぁ、後はこの我侭な子供にきつい一撃をくれてやるだけだ。


約束されたエクス―――勝利の剣カリバー!」


 最後の一撃が放たれる。その光は泥を吐き出し続ける大聖杯を破壊し、冬木での聖杯戦争に終わりを告げた。
 それと同時に、セイバーの肉体もその場から何もなかったかのように消えた。


「終わったなー」


 あっけらかんと呟くのはアサシンだ。サーヴァントを現界させている聖杯がなくなった以上、これ以上現界は出来ない。アサシンもすぐに、英霊の座へと戻るだろう。


「……」


 イリヤがぎゅっとアサシンの服を握り締めた。もう、アサシンとは二度と会うことはない。寂しさからイリヤは、絶対に離さないという意思を持ってアサシンの服を握り締め続ける。
 そんなイリヤの頭を、アサシンは優しく撫でた。


「アサシンも、ありがとう。桜を助けてくれて」


「おいおい、勘違いするなよ衛宮。その子を助けたのはお前だろ。俺は、ただセイバーの手助けをしただけだ」


 足止めと囮だけどな、とアサシンは苦笑して言う。そんな事ないと士郎はそれを否定した。確かに、アサシンのしたことは囮と足止めだが、それなくしてアーチャーの打倒はなしえたか分からない。
 セイバーも、きっとそう思っていたはずだ。


「それでも、ありがとう。……元気でな」


「そっちこそ。その子と幸せにな」


 それで別れの言葉は終わりだ。凛は、アサシンに何も語ろうとしない。敵だったから、そういう理由では決してない。
 語るべきことも、言うべきことも、全て士郎が言った。なら、自分には何も言うことはない。アサシンもそれを悟ったのか、何も言わない。
 最後に残るのは、自分を信じて共に歩んできたマスター。


「イリヤ、今まであ――」


「いや、いや!」


 アサシンの言葉を遮ってイリヤは抱きついた。予想していたこととはいえ、やはり心苦しい。泣きじゃくって決して手を離そうとしないイリヤの姿に、士郎と凛は何も言えなかった。


「ずっと、ずっと一緒にいてよユウイチ。離れたくなんてないよ、帰らないでよ、セラとリズと、シロウ達と一緒にいてよ、私と一緒にいてよ……っ」


 吐き出されるイリヤの願い。それはイリヤが初めて子供のように泣きながら、自分自身の心からの願いだった。
 離れたくない、一緒にいたい、自分と死ぬまで一緒にいて笑っていて欲しい。
 そんな、何の変哲もない小さな少女の願い。しかし、その願いは叶えられることはない。


「ごめんな、イリヤ。俺にはそれは叶えられない」


 イリヤを抱きしめながら、アサシンは残酷な言葉を口にする。いや、始めから答えなど分かっていたのだ。士郎にも、凛にも……そしてイリヤにも。


「ユウイチ……ごめんね、我侭言って」


「可愛い主人の我侭なら何度でも許せるよ。こっちこそ、辛い思いをさせてごめん」


「いいの。私ならもう大丈夫。セラやリズもいるし、シロウもいるから」


 イリヤの表情は笑顔だ。しかし、瞳から流れる涙は止まらない。別れが近づいてきたのか、アサシンの体が薄く透けていくのが全員の目に映った。


「イリヤ」


「っ……な、何?」


 名前を呼んで、アサシンはイリヤを正面から抱きしめた。ぎゅっと……力強く。イリヤの鼓動を、暖かさを、自分の身に刻み付けるかのように。


「―――今までありがとう。元気でな」


 そう、イリヤの耳元で呟いて、アサシンは静かにイリヤの前から消えていった。抱きしめられていたイリヤは、自分の体に残っているアサシンの体温が少しずつ消えていくのを感じていた。
 本当に、アサシンはもういないのだと――それを突きつけるかのように。


「……イリヤ」


 ぽん、と頭に士郎の手が乗った。見上げれば、士郎が自分を見下ろしている。桜は凛が抱えていた。
 何を言うべきか、イリヤが言いあぐねていると士郎はこう言った。


「もう――泣いていいんだよ」


 言われてしまって、イリヤは抑えていたものがあふれ出してしまった。士郎へと抱きつき、大声を上げて泣いた。
 もうアサシンには会えない。二度と会うことが出来ない。悲しみが、抑えていた悲しみがあふれ出してしまえばそれまでだった。


「シロウ……うああああああああっ」


 イリヤは、士郎に縋り付いて泣いた。そんなイリヤに、士郎はただ好きに泣かせ撫でてやるしか出来ない。
 アサシン――相沢祐一と、イリヤ。彼らの関係は士郎には到底考え付かないほど深かったのだろう。だからこそ、イリヤはここまで泣く。子供のように。
 聖杯として生まれ、ただそれだけの為に生きてきたイリヤスフィールという少女は、初めて子供のように泣いた。
 それは彼女が、聖杯としてではなくただの人間として、子供として流したたった一つの涙。

 ――――物語を締めくくるのは、悲しみにくれる少女の涙。
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神薙 祐樹

  • Author:神薙 祐樹
  • 1987年3月11日生まれ。
    うお座のAB型。
    現在は雇われ店長としてブラックな職場で日々働いて時間を失っています。

    RO現在休止中。Mimir鯖所属、主に影葱。ガンダムオンライン、ガンダムジオラマフロントにはまってます。

    SS書く時間がほしい。
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